2012年05月26日

【本】黒岩よしひろ「変幻戦忍アスカ」

「変幻戦忍アスカ」 黒岩よしひろ/集英社/1989年

 1988年に「週刊少年ジャンプ」に連載された、黒岩よしひろによるファンタジー漫画。全二巻。

 ふと懐かしくなって、小学生の頃にジャンプで連載を読んで以来、20年以上ぶりにこの作品を読み返してみた。80年代の匂いが色濃く漂う作画が、今となっては非常に懐かしい。作者の黒岩よしひろは、Wikipediaに「『打ち切り作家』の代表的存在として知られ」と書かれているが、本作も連載20週に届かず打ち切りとなってしまい、当時は残念に思ったものだった。

 大人になってから改めて読んでみると、やはり、この作品の内容には少し物足りなさを覚えてしまう。「絶対的な悪と戦う」というストーリーはやや平板で、ジャンプが想定する読者層よりは、もう少し低年齢の子供たち向けのものだったのかもしれない。また、物語上に仕掛けられる舞台装置やギミックは、趣向が凝らされていて面白いのだけれど、少年向けとしてはちょっと複雑すぎるかな、と感じることもあった。こうした部分が作品にややちぐはぐな印象を与え、物語への感情移入を阻む結果になってしまっているのではないか、と思えた。

 しかし、この漫画の登場人物は現在でも十分に魅力的だ。特に主人公の造形は、後のいくつかの有名作品における登場人物のプロトタイプになったのではないかと思えるほどだ。本作は打ち切り作品でありながら、単行本刊行から実に16年後、2005年になって竹書房から再刊されているが、それはこの作品に光る「何か」があったことの証明ではないかと思う。作者が描きたいものと、世間が求めるニーズとがうまく合致して、また作者の作品が世に出る日が来ることを祈っている。

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2012年02月19日

【本】有賀ゆう「スーパーエリートの受験術」

「スーパーエリートの受験術」 有賀ゆう/アルファベータ/1994年

 東京大学理科三類や薬剤師国家試験などに合格した著者が、受験テクニックや、受験生活の過ごし方、時間の使い方、食事や成功心理学に至るまで、さまざまな切り口から受験術を解き明かした本。

 Amazonで異様な高値が付いていることで有名な本である。この記事をアップした時点でも、60,000円と200,000円で2冊出品されており、過去には800,000円(!)で売りに出されていたこともあった。

 残念ながら現在は手許にないのだけれど、受験生当時にこの本を読んだ記憶を辿ると、受験テクニックのほかに、受験に向けた心構えや生活態度などに相当な紙幅を割いていて、一種の自己啓発本のような色合いを持つ本だったように思う。類書の中にそうした特徴を持つ本はあまり見当たらなかったので、新鮮な印象を受けた記憶がある。

 また、本書に紹介された受験テクニックの中にも斬新なものがあった。例えば、「選択式の問題を、本文を見ずに選択肢だけを見て解く」という方法は衝撃的だった。すなわち、出題者が問題を作成するときの心理を読みながら正しい選択肢を探り当てていくという、ちょっと小賢しい方法なのだが、大学受験以外にも応用が利く便利なテクニックだった。(必ずしも成功率が高い方法ではないので、個人的には「正攻法で問題を解くに当たり、正答の目星を付ける」程度の使い方をしていた。)

 しかし、本書に何万円もの価値があるかというと、それはまた別の話ではないか。確かに本書には受験に有用な情報が詰め込まれているけれど、どんなに受験情報を集めようが、結局は自分でみっちり勉強しなければならないのだ。私自身、本書も参考にしながら志望校に合格したけれど、それは本書が素晴らしかったからではなく、単に受験生時代に猛勉強したからにほかならない。本書は決して、難関大学に合格する学力を簡単に与えてくれたり、受験の辛さを劇的に救済したりするような、「魔法の杖」ではないことは銘記されていてしかるべきではないかと思う。

 著者は、本書の内容が古くなってしまっていること、もう受験業界から離れていることなどを理由に、本書を再刊するつもりはないそうである。おそらくこうした受験参考書の常として、「本で紹介されたとおりにやったのに上手くいかなかった」というクレームをつけられたり、あるいは医学の道に進むにつれて受験への興味が薄れたりといった事情もあったのではないかと拝察する。

 しかし、本書の中で紹介されている参考書などに陳腐化した部分があろうとも、受験というものの捉え方・考え方にはまだまだ汲むべきものがあるだろうし、そうした事柄を分かりやすく解説する才能も、誰にでも備わったものではない。また、法外な出費をしなければ本書を読むことができないという現状も、およそ健全な状態とは言えないのではないか(国会図書館に行けば、5,000円程度で全文コピーできるようだが)。絶えざる需要がある以上、あくまで1994年当時の受験界を前提にした本であり、現時点でその内容に責任は負えないことを留保した上で、一種の考古学的な価値を持つ本として、部数限定で本書を復刊しても良いのではないかと個人的には思う。

posted by A at 09:53| 本(その他) | 更新情報をチェックする

2012年02月18日

【本】「指原莉乃1stフォトブック さしこ」

「指原莉乃1stフォトブック さしこ」 講談社/2012年

 「AKB48」メンバー、指原莉乃さんのグラビア写真と、その生い立ちなどに関する文章からなるフォトブック。

 元々、芸能界の動きには明るい方ではないのだけれど、それにしてもこのAKB48というアイドルグループは、本当によく分からない。2005年、このグループのメンバー募集に関する報道を見たとき、アイドル冬の時代に物好きなことをやるものだと、多少呆れるような感想すら抱いた。グループが無事誕生したというニュースに接しても、全く垢抜けない女の子たちを見る限り、とてもこのグループが大成するとは思えなかった。初めてテレビでこのグループの歌(「スカート、ひらり」)を聴いたとき、こんな昭和のアイドルソングのような歌では、とても人気は得られないだろうと思った。CDの販売問題で公取に目を付けられ、レコード会社との契約を打ち切られた時には、これでこのグループは完全に終わったと思った。「RIVER」でオリコン1位を取ったときには、これで人気上昇の勢いも一段落するだろうと思った。「ヘビーローテーション」で大ブレイクした時には、これで人気もピークだ、あとは落ちていくだけだと思った。そして、これらの予想は、何ひとつ的中しなかったのだ。

 なぜ、AKB48というグループは爆発的な人気を集め、しかもその人気を高い水準で維持できているのだろうか。その理由は既に各所で語り尽くされているけれど、その一端を、この「さしこ」という本にも見ることができる。本書では、人気メンバーの一人、指原莉乃さんの生い立ちについて、さまざまな人々の証言を集めながら、かなり詳しく紹介している。平凡な子供時代、いじめを受けて不登校になった中学生時代、AKB48に合格するもなかなか芽が出なかった雌伏の時代、そして現在のブレイク。これは、普遍的な共感を獲得しやすいシンデレラ・ストーリーの原型に、そのまま当てはまるものではないだろうか。しばしば言及されることだけれど、こうした個人の成長過程を赤裸々に提示することが、AKB48というグループの人気の秘訣の一つなのだろうと思った。

 我々には、ある対象に資源を投入すればするほど、ますますその対象に執着してしまうような傾向がある。AKB48のCD販売に関しては、ファンによる大量買いが批判されることがあるけれど、逆に言えば、こうした強力なファン層が下支えしているからこそ、AKB48の人気は多少のことでは揺るがず、当面安定的に維持されていくのではないか。このお化けグループの勢いがどこまで続くのか、興味深く見守っていきたい。

posted by A at 14:13| 本(その他) | 更新情報をチェックする

2009年11月01日

【本】釜本雪生・くぼうちのぶゆき編著「テキストサイト大全」

「テキストサイト大全」 釜本雪生・くぼうちのぶゆき編著/ソフトマジック/2002年

 テキストサイトに関する評論や、サイト管理人へのインタビューなどを集めた本。

 テキストサイトとは、「文章を主なコンテンツとするホームページ」のことで、特に個人の日記をそのメインコンテンツとするものだ。90年代末期から00年代初期にかけて隆盛を誇ったが、より簡易に更新ができるブログなどの登場により、現在では往時ほどの勢いはない。

 本書は、このテキストサイトを取り巻く文化が最も爛熟していたと言える時期に、混沌としたテキストサイト界隈の様子を整理して記録した、貴重な一書である。特に、「侍魂」や「ろじっくぱらだいす」といった巨大サイト管理人への長編取材は、当時のサイト運営者たちの息づかいを窺わせるもので興味深い。

 本書に登場する当時のテキストサイト群を見ると、自分自身がその頃よく巡回していたものも多くて懐かしい気分になるが、現在ではその多くが閉鎖・休止に至っている。また、テキストサイトのポータルサイトとも言えた「ReadMe!」が昨年機能停止したことも、この世界の衰退を端的に表す事実なのだろう。

 しかし、自分の思いを世界に発信し、同じ趣向を持つ仲間たちとの交流を目指すテキストサイトの精神は、その形をブログやSNS、twitterに変えて、現在も見事な発展を続けている。そうした意味で、本書が描いたテキストサイトの明るい未来は、的確な予想図であったと言ってよいのではないだろうか。

posted by A at 00:20| 本(その他) | 更新情報をチェックする

2009年03月07日

【本】モスモス編集室「モスモスサーカス」

「モスモスサーカス」 モスモス編集室/リトル・モア/1996年

 「モスモス」という小雑誌をご存じだろうか。1990年代前半ごろ、モスバーガーが店頭で無料配布していたささやかなPR誌だ。広報目的の冊子のはずなのだが、そのコンテンツは妙に充実していて、各地のモスバーガー店舗・スタッフの紹介に始まり、各店に通う常連さん紹介、不思議な芸術作品群、ちょっと切ない人生相談、いがらしみきおの連載漫画、そして何より、ありとあらゆるテーマに対する愉快で秀逸な読者投稿の数々と、毎回読んでいて飽きない内容だった。当時中学生だった私は、この盛りだくさんの中身が詰まった小冊子をタダで貰ってくるのが何となく申し訳なくて、豊かとはいえない小遣いのなかからいつもバニラのシェイクを1つだけ買って、「モスモス」をもらって帰ってきていたことを憶えている。

 1991年6月から1996年3月まで足かけ6年に渡り刊行され、一時は発行部数が80万部にも達したというこの伝説のPR誌「モスモス」のエッセンスをより抜いて編集したのが、96年末に出版された「モスモスサーカス」だ。今見ても随分シュールで濃い、そしてどこか懐かしい世界が広がっている。この本に関わった人たちの中から、その後クリエイターを職業とするようになった方々もいるのだそうだが、それもうなずける気がする。

 「モスモス」が姿を消して、もう10年以上が経つ。けれども、今でも時々、このささやかな小冊子のことを思い出すことがある。一度あった復活の話もいつのまにか立ち消えになってしまったらしいけれど、もしまた近所のモスバーガーで「モスモス」的なものに出会えるようになったら、今度はちょっと立派なハンバーガーでも奮発して、ゆっくり眺めてみたいと思っている。 
 
posted by A at 23:34| 本(その他) | 更新情報をチェックする