2018年12月16日

【本】葛間寛「鰊場育ち 北海道泊村『一網千両』の記憶」

「鰊場育ち 北海道泊村『一網千両』の記憶」葛間寛/幻冬舎ルネッサンス/2012年

 昭和初期に、北海道泊村の鰊場(鰊漁の親方)の家で育った著者による、鰊漁にまつわる回想記。

 昭和の初め頃までの時代、北海道の留萌〜積丹半島あたりの地域では、鰊(にしん)漁が盛んに行われていた。毎年春先になると、北海道西岸には、大量の鰊が産卵のために押し寄せてくる。これを鰊場の漁師たちが、農閑期の東北から出稼ぎで来た若い衆とともに、網漁で一気にすくい上げる。そして、大量に陸揚げされた鰊は、数の子や白子を取り出したり、出荷用の身欠き鰊に加工したり、小さな鰊は肥料用の「搾粕(しめかす)」にしたりして、仲買人に売り渡される。このようにして、多い年には100万トン近い漁獲量を誇った鰊は、北海道西部に大きな富をもたらしたのだった。

 本書は、こうした鰊漁にたずさわる人々の姿や、漁の様子などをありのままに記録した一書である。出稼ぎの漁師たちの日々の暮らしぶりや給料、鰊漁の仕組みや鰊の加工方法、鰊場に出入りする仲買人や投資目当ての山師たちの有様など、鰊漁をめぐる当時の空気がありありと描かれていて興味深い。個人的には、渡辺一史の名作ノンフィクション「北の無人駅から」(北海道新聞社)を読んで鰊漁に興味を持ち、いくつか本を読んでいるのだけれど、本書は鰊場の雰囲気を分かりやすく簡潔に紹介していて、自分のような門外漢の人間にとっても手に取りやすい一冊だった。

 このように隆盛を誇った鰊漁も、昭和20年代を迎えると、どういうわけか鰊が北海道西岸に寄りつかなくなり、昭和30年代以降の漁獲量はほぼ皆無となっている。その原因としては、海流変化説や森林伐採説(プランクトンの減少)、乱獲説など諸説が唱えられているようだが、結局のところ全く不明とのことであり、何か興味をかき立てられる部分ではある。近年では稚魚放流の成果もあり、若干の水揚げが見られるようになったようだが、いずれにせよ、本書に記録されたような鰊漁文化の繁栄が戻ってくることは、もはやないのだろう。

posted by A at 17:49| 本(ノンフィクション) | 更新情報をチェックする