2016年07月18日

【本】後藤正治「人物ノンフィクションT 一九六〇年代の肖像」

「人物ノンフィクションT 一九六〇年代の肖像」 後藤正治/岩波現代文庫/2009年

 1960年代に活躍した歌手やスポーツ選手などの軌跡を追ったノンフィクション。取り上げられた人物は、藤圭子、ファイティング原田、ビートルズ&ボビー・チャールトン、シンザンをめぐる人々、吉本隆明。2000年前後に「Number PLUS」などの雑誌に発表された記事を、加筆・修正したもの。

 60年代を象徴する人々に焦点を当てたノンフィクション作品群である。高度経済成長期の当時から既に半世紀が経過し、往時の出来事も歴史の一ページに変わりつつあるが、この時代をリアルタイムで体験した著者は、登場人物たちの足跡を紹介するとともに、当時の社会風潮や人々の価値観をも丹念に描き出している。

 著者の作品では、「遠いリング」(講談社ノンフィクション賞)、「リターンマッチ」(大宅壮一ノンフィクション賞)、「咬ませ犬」など、ボクシングを扱った名作ノンフィクションの数々が知られているが、本書でも、ファイティング原田を取り上げた「黄金時代」は、特に秀逸な一編であるように思えた。原田という人物の前向きな人生観や、しなやかで強靱な生き様を丁寧に描写し、彼の魅力を存分に伝えている。読後感の良い作品だった。

 また、1964年に三冠馬となったシンザンをテーマとした作品も興味深い。厩舎関係者たちの迷いや葛藤と、それらとは対照的なシンザン自身の悠揚迫らぬ活躍ぶりが、克明に映し出されている。私自身は現役当時のシンザンを知らないが、孫に当たるマイシンザンのレースを、10代半ば頃に何度かテレビの競馬中継で見たことがある。彼が関西のGVで久々に重賞勝利を挙げたとき、そういえば彼の祖父はまだ長寿を保っているんだな、という事実を思い出して、偉大な競走馬の生命力の強さに、改めて驚きを覚えたことを記憶している。

posted by A at 16:21| 本(ノンフィクション) | 更新情報をチェックする