2015年11月21日

【本】スピッツ「旅の途中」

「旅の途中」 スピッツ/幻冬舎/2007年

 ロックバンド・スピッツのメンバー4人が、生い立ちからバンド結成、売れない時代、90年代中盤の大ヒットを経て、安定期に入るまでの経緯を振り返った本。

 スピッツのメンバーたちが、自らの来し方を綴った本である。彼らの著書としては、既に「スピッツ」(2001年、ロッキングオン)があり、この本には過去の音楽雑誌の記事やインタビューなどが収録されていて、その当時のバンドの雰囲気が感じられる内容になっている。これに対して、本書「旅の途中」は、2007年時点でのメンバーの記憶を辿りながら、彼らの歴史を振り返った本であり、バンドの足跡をやや俯瞰的に眺めるような構成に仕上がっている。

 本書に盛り込まれたエピソードの数々は、ファンにとっては新鮮な驚きとなるものも少なくないが、個人的に印象に残ったのは、1995年の「ロビンソン」(動画)のヒットにまつわる逸話だ。デビュー以来、スピッツはオリコンの100位チャートにさえ載らない低空飛行が続いたものの、ようやく5枚目のアルバム「空の飛び方」が14位に入った。そして、ボーカルの草野マサムネ自身が「これがスピッツのアルバムが最高に売れた状態だ」と満足し、「そこそこは売れても、ベストテンをにぎわせるようなヒット曲は出ないだろう。それがスピッツらしいポジションだ」と自らの立場をわきまえていたころ、シングル「ロビンソン」が162万枚の大ヒットを記録したのだった。

 このヒットが出たときのエピソードを、草野は次のように綴っている。

「「ロビンソン」が売れているかどうか、渦中にいる俺らにはいまいちピンときていなかった。「ロビンソン」が売れたことを実感したのは、夏の野外イベントのときだ。大阪の万博公園の<FM802 “MEET THE WORLD BEAT’95”>と、福島の<COMING POP’95 “WIND PARK−NARAHA”>に出演したとき、俺たちが「ロビンソン」を演奏したら、数万人のお客さんたちの大合唱になった。あのときは鳥肌が立った。
 ――ほんとにヒットしたんだ」

 「いつものスピッツの、地味な曲だなあ」(草野)という「ロビンソン」でヒットを掴んだことは、彼らにとって、極めて大きな意味を持ったのではないかと思う。自分たちのスタンスを枉げて、無理に売れ線を狙った曲作りをすれば、一時的なヒットを獲得することはできるかもしれないが、魅力的な曲を長く作り続けることはきっと難しかっただろう。途中で色々な試行錯誤はあったものの、結局、自分たちの基本的な姿勢を変えずにヒットに辿り着いたことが、このバンドの息の長い活躍につながったのではないだろうか。

posted by A at 21:15| 本(その他) | 更新情報をチェックする