2014年08月30日

【本】吉田正仁「リヤカー引いて世界の果てまで」

「リヤカー引いて世界の果てまで 地球一周4万キロ、時速5キロのひとり旅」
吉田正仁/幻冬舎文庫/2014年

 いわゆるニートだった著者が一念発起し、リヤカーに衣食住の荷物を積んで、徒歩で世界一周に挑んだ旅行記。

 4年半余りの歳月をかけて、中国から中央アジア、ロシア、東欧、トルコ、西欧、北米、オーストラリア、東南アジア、そしてまた中国を一人で歩きぬいた若者の旅の記録である。世界各地の人々との温かい交流や、わりと真剣に命が危ない場面などを、素直な筆致で瑞々しく描き出していて面白い。臨場感にあふれた、優れた紀行文と呼べる一書である。

 たとえばオーストラリア縦断の場面について取り上げてみると、著者は、オーストラリア大陸の中央を貫く全長約2,800キロのスチュアートハイウェイを、南から北に向かって単独で踏破していく。このハイウェイ沿線は一面の砂漠で、100キロ、200キロ単位でしか町が存在せず、水も食料もろくに補給することができない。そのような不毛な土地を、灼熱の太陽に照らされながら一人黙々と歩くありさまは、ただ苛酷というほかない。しかしそんな道のりの過程でも、著者は、砂漠の町の雰囲気や気候の様子、通りすがりのドライバーたちとのやり取り、途中で寄り道をしてはるばるウルル(エアーズロック)を訪ねた経緯などを活き活きと描いていて、その感性の豊かさを存分に伝えている。

 ところで、旅が似合う年頃というのは意外に短い。どこにでも行ってやろうという10代の頃の突撃精神も、何でも見てやろうという20代の旺盛な好奇心も、30代に手が届くころになると、どうしても陰りが見えてきてしまう。また、「いつまでふらふらしているのか」という周囲の視線や、なかなか安定できない自分への反省が突き刺さるようになって、旅への無邪気な憧憬を次第に失っていってしまうのだ。そうした意味で著者は、旅がもっとも似つかわしい年代の最後に間に合う形で、この素晴らしい旅を実現できたのではないかと思う。

posted by A at 18:30| 本(登山、鉄道、旅) | 更新情報をチェックする