2013年05月04日

【本】村上春樹「1Q84」

「1Q84」 村上春樹/新潮社/2009〜2010年

 村上春樹の長編はひととおり目を通すことにしているのだけれど、本書を長らく積読にしているうちに、いつの間にか新刊が出てしまった。ともかく、先月から少しずつ通勤電車の中で本書を読み進め、ようやく読了した。

 本書のプロットをごく大雑把に説明すると、主人公格の青豆や天吾が「1Q84」年の世界に迷い込み、様々な経験を経て成長し、そこから脱出して新たな世界に進む、というものだ。予想外の出来事による身辺の環境の変化、親や友人の死、伴侶の獲得などといった試練に直面する、この「1Q84」年という舞台は、あるいは何かを暗喩するものなのだろうか。まだまだ不安定ながらも、人生の基盤を着実に固めていく青年期のメタファなのか。それとも、単に人間の姿や宗教の特異性を浮き彫りにするために用意された舞台装置に過ぎず、特別な意味は何も込められていないのか。物語のディテールも含めて、色々と好き勝手な推測を巡らせて楽しんだ。

 村上春樹作品では、しばしば多義的な解釈の余地があるストーリーが展開され、その人となりや思考様式が読者の見方に委ねられている登場人物も少なくない。そして読者は、自身の経験や思想に引きつけてそれらを咀嚼し、結果的に読者自身が村上作品に「最後のひと手間」を加えることによって、自分にとって納得のいく作品を自ら仕上げている側面があるように思うのだ。村上作品が世界規模で広く受け入れられていること、また、熱心なファンを次々に生み出していることの理由の一つは、そんなところにもあるのではないか、などということを考えた。

posted by A at 09:51| 本(小説) | 更新情報をチェックする