2012年11月18日

【本】渡辺一史「こんな夜更けにバナナかよ」

「こんな夜更けにバナナかよ」 渡辺一史/北海道新聞社/2003年

 北海道で暮らす障害者・鹿野靖明と、彼を介助するために集まったボランティアたちの記録。第35回大宅壮一ノンフィクション賞、第25回講談社ノンフィクション賞受賞。

 難病の筋ジストロフィーのため、一種一級の重度身体障害者として生きる鹿野靖明と、彼の身辺を世話するためにボランティアとして応募してきた人々の人間模様を描いたノンフィクションである。わがままな要求も多く、人当りもきつい鹿野の元に、どうしてこんなに多数のボランティアが集まり、長期間にわたって介護を続けていくのか。傍目にはなかなか不思議な部分もあるが、著者は自らもボランティアとして参加しながら、鹿野やボランティアたちの心情を丁寧に解き明かしていく。

 鹿野の介助に携わるボランティアたちは、多かれ少なかれ、背景となるストーリーを抱えて鹿野のもとにやってくる。劣等感に苦しむ性格を打破しようとする大学生や、40代で冷淡な夫と離婚して、初めて自らの人生を切り拓こうとする主婦など、ボランティア行為そのものに関心があるというよりも、ボランティアを触媒として、人生の転機を掴もうとする者が少なくないように思えるのだ。そして鹿野は、わがままに振る舞う一方で、そうした多様なパーソナリティを受け止めるだけの度量の持ち主でもあるように見受けられる。このような鹿野とボランティアたちの人格の交錯が、このノンフィクションを滋味豊かな作品に仕上げている。

 著者のことにも少し触れておきたい。著者の渡辺一史氏は、北大中退後フリーライターとして活動し、30代半ばにして、初の著書として本書を上梓している。本書の執筆に当たっては、他の仕事を中断し、貧しいアパート暮らしを続け、ついには借金までしながら、2年半の歳月をかけてようやく完成にこぎつけたのだという。きっと著者は、そうした苦しい生活を続けながらも、この題材から優れた作品を生み出せることを、無意識のうちにでも確信していたのではないかと思う。才能に引きずられて、人生のすべてを何かの対象に投入するような著者の生き方は、一見大変そうだけれど、天与の資質に恵まれた人にのみ許された人生であるように思えて、ちょっと羨ましく感じられた。

posted by A at 09:55| 本(ノンフィクション) | 更新情報をチェックする