2009年12月20日

【本】大穂耕一郎「駅前旅館に泊まるローカル線の旅」

「駅前旅館に泊まるローカル線の旅」 大穂耕一郎/ちくま文庫/2002年
(「駅前旅館は生きている」(のんぶる舎/1996年)を増補・改題したもの)

 「駅前旅館」の宿泊記録と、旅館を取りまく現状を著した本。

 駅前にたたずむ古びた小さな旅館、「駅前旅館」についての本だ。これらの旅館は、一泊二食付でおおよそ6000〜8000円ぐらいで泊まれ、土木工事や測量、工事事務所への出張といった、いわゆるガテン系・技術系の仕事客が主な利用層になっている。鉄道や写真、釣りを趣味とする著者は、東北から関東甲信越にかけての「駅前旅館」を泊まり歩き、その旅行記を本書で紹介している。

 「駅前旅館」に泊まるメリットのひとつは、その食事だろう。たとえば、本書に登場するある旅館の夕食は、マグロの刺身、エビフライ、ホタルイカの塩辛、寄せ鍋(ホタテ、鳥肉、イカ、タラ、豆腐、春雨、ネギ、エノキダケ)、お新香、そしてご飯はうな丼。これで一泊二食6000円、というのはかなり恵まれた例だろうが、「ちゃんとした食事がしたい」という理由でビジネスホテルではなく旅館への宿泊を選ぶ人々がいるだけあって、普通の家庭料理よりはボリュームの多い、しっかりした食事が出される傾向にあるようだ。

 そのほか、畳の部屋で寝られることや大きな湯船の風呂に入れることも「駅前旅館」の特徴だし、著者と宿の主人や他の宿泊客との交流も読んでいて楽しい。自分が一人旅に出かける時には、人付き合いが煩わしくてついビジネスホテルを選んでしまいがちになるのだけれど、本書を読んで、たまには「駅前旅館」もいいかな、という気持ちにさせられた。


(2016.1.24追記)
 2016年現在、本書に登場する旅館のいくつかは、既に廃業したようである。その一方で、食事が「凄まじくおいしかった」と本書で紹介されている、茨城県大洗の「肴屋本店」は、アニメ「ガールズ&パンツァー」に登場し、いわゆる聖地巡礼の対象になっているそうだ。予想外の取り上げられ方だけれど、どんな形であれ、駅前旅館が繁盛するのは素晴らしいことではないかと思う。


posted by A at 01:05| 本(登山、鉄道、旅) | 更新情報をチェックする