2009年10月23日

【本】最相葉月「東京大学応援部物語」

「東京大学応援部物語」 最相葉月/集英社/2003年
(新潮文庫版(2007年)で読みました)

 ひたすら連敗を重ねる東大野球部をひたすら応援し続ける、東大応援部の日常を追いかけたノンフィクション。

 学生時代、東大本郷キャンパスの中央食堂(安田講堂前の広場の地下にある)で食事をすることが時々あった。「中央食堂」の名に恥じない広々とした食堂で、随分たくさんのテーブルが並べられていたが、どういうわけか、どのテーブルの上にも小さなプレートがひとつ置かれていた。プレートの中には小さな紙が挟まれていて、そこには常に、次のような感じの勇ましい言葉が並べられていた。(得点差はうろ覚えである)

「東大野球部、前回試合は早稲田に惜しくも2−13で敗戦!」
「勝利までもうひと押しだ! みんな、一緒に神宮へ応援に行こう!!」

 プレートを置いた主は、言うまでもなく東大応援部だった。しかし、「惜しくも2−13」とはどういうことなのか。一体、何が「もうひと押し」なのだろうか。本当は東大野球部が勝つ見込みなどないことが十分わかっていて、その上でこういう文章を書いているのなら、それは相当に気の毒な事態なのではないか。私はそのプレートに、一種の痛ましさすら感じたものだった。

 それからしばらく歳月が経って、本書を手にする機会があった。そこに見る東大応援部の実態は、想像を絶するものだった。まわりから奇異の目で見られながら学ランで過ごす日々。授業にも出られない応援部中心の生活。先輩に対する常軌を逸した礼儀作法。日常茶飯事の理不尽な体罰。そして、過酷な鍛錬。本書の中で、見知らぬ学生から「勉強しすぎて頭おかしくなってんじゃないの」などという言葉が投げかけられているが、そう見る人がいてもやむを得ないのではないかと思えるほどだった。

 しかし、これほどまでに一つの物事に打ち込める人間は、世の中にそうはいまい。彼らはひたすら応援のための生活に没頭し、仲間とともに東大野球部の勝利を一途に信じ、応援の技術を一心に磨く。そして、他者のために力を尽くすという行為を通じて、人として着実に成長していくのだ。彼らにとって、応援部で過ごした濃密な時間や仲間との絆は、一生かけがえのないものとして残るのだろう。

 かつて、東大応援部主将を務めた人と酒席を共にさせてもらったことがある。その人は、人間としての迫力と器の大きさを感じさせる、まさに「好漢」の名にふさわしい人物だった。時に理不尽とも言える過酷な経験も、長い目で見れば、大きな人格を育てる砥石となるのだろうか。

posted by A at 22:03| 本(ノンフィクション) | 更新情報をチェックする