2009年06月14日

【本】ジョン・ロルフ、ピーター・トゥルーブ「サルになれなかった僕たち 〜なぜ外資系金融機関は高給取りなのか〜」

「サルになれなかった僕たち 〜なぜ外資系金融機関は高給取りなのか〜」 ジョン・ロルフ、ピーター・トゥルーブ/主婦の友社/2007年
(2001年に主婦の友社から刊行された単行本「ウォールストリート 投資銀行残酷日記」を改題・文庫化したもの)

 ハーバード大、ペンシルベニア大のビジネススクールでMBAを取得し、一流投資銀行に就職した著者二人が、その内幕に幻滅し、退職するまでを描いた本。

 投資銀行のアソシエイトとして数年を過ごした著者たちが、その悲惨な勤務実態を赤裸々に綴った本である。曰く、ろくに活用されないのに作らなければならない膨大なプレゼン資料。その資料に対する、上司による無意味で理不尽な字句修正の山。資料作りの過酷なタイムリミットに応えるため、午前二時や五時、ひどいときは七時まで働かされ、それが週7日続く労働環境。中身の無い資料を見栄え良くするために、デザインや印刷に注ぐ無駄な労力。コピーや製本を担当するスタッフに気を遣い、時には付け届けまでしなければ資料が完成しない非能率な事務システム。そうして出来上がった資料は、収益の見通しが立たない企業への出資を勧める詐欺まがいのもの。投資資金を集めるためにこなす、物理的にも精神的にも過酷な出張の数々。そして、こうした環境で長年過ごしたため、人格まで破綻してしまった上司たち――。

 このような厳しい労働への対価として、著者たちは20万ドルを軽く超える高年俸を手にしている。しかし、仕事をする上でのこうした理不尽な側面は、どのような企業に就職しても、程度の差こそあれ直面しなければならない現実なのではないか。投資銀行で働いた経験はないが、この本を読みながら、どうも既視感に捉われてならなかった。

 また、著者らの描写が真実であれば、彼らが在籍した投資銀行の業務には非常に無駄が多く、効率化の余地がいくらでもある。その気になれば容易に改善できそうなものを、この銀行はなぜしないのか。あるいは、先に法外な報酬相場が出来上がってしまって、そのような報酬を貰うのは当然だという神話性を維持するために、後付けで報酬に見合う過酷な業務内容が生み出されているのではないか、とさえ思われた。

 著者たちよりももっと上の役職ならば実感できるであろう投資業務の本来の醍醐味や、「なぜ外資系金融機関は高給取りなのか」という本質的な理由は、結局この本では触れられていない。しかし、苛烈な労働環境で入社1年目から高給を取る若者たちの本音を覗くことができる、面白い本である。

posted by A at 21:19| 本(ノンフィクション) | 更新情報をチェックする