2009年06月05日

【本】清水真人「首相の蹉跌」

「首相の蹉跌」 清水真人/日本経済新聞出版社/2009年

 小泉政権を引き継いだ安倍政権、福田政権の軌跡と、後二者が小泉元首相による「官邸主導」政治の後継者たり得なかった背景を描き出した一書。著者は日経新聞編集委員。

 本書によれば、安倍政権、福田政権の失敗の第一歩は、政権発足当時に詳細なマニフェストを掲げなかったことにあるという。先代の小泉政権は、郵政民営化に代表されるように、しばしば深刻な党内対立を抱えていたため、分かりやすいマニフェストを用意して国民の支持を集める必要があった。そして、総裁選や総選挙に勝利した後は、選挙により自らの方針に国民の信を得たとして、マニフェストに沿って強力に政策を推進していくことができた。

 これに対し、安倍・福田両政権は、その発足の際に極めて抽象的で曖昧なマニフェストしか作らなかった。総裁選時に党内の大勢の支持を得ており、党内融和の観点から、あえて対立点を生み出すようなマニフェストを作る必要がなかったのだ。このため、政権発足後に具体的な方向性を打ち出す時点で、その内容がラディカルであればあるほど党内の強い反発を招くこととなり、政策を前に進めることができなくなってしまったのである。

 そして著者は、首相権力に対する小泉元首相の冷徹なまでの考え方と、後継政権の人材配置の失敗や政局の見通しの誤りを対比して描き、「官邸主導」に対するそれぞれの認識の違いを浮かび上がらせている。延べ3回の大臣職を経験し、官僚との間で決定的な対立まで経験した小泉元首相と、大臣として省庁を運営する経験を持たぬまま総理になった安倍元首相・福田前首相との間には、権力の運用に関する成熟度に大きな差異があったということなのだろうか。

 著者は、官邸をめぐる政治プロセスに関する作品として、既に「官邸主導」(2005年、日本経済新聞社)、「経済財政戦記」(2007年、日本経済新聞出版社)の二冊を上梓している。いずれも、一般には窺い知れない政策決定の過程を詳しく描写していて、興味深い。

posted by A at 23:27| 本(ノンフィクション) | 更新情報をチェックする