2009年01月25日

【本】加東大介「南の島に雪が降る」

「南の島に雪が降る」 加東大介/文藝春秋新社/1961年
(光文社知恵の森文庫版(2004年)で読みました)

 太平洋戦争中、一下士官として西部ニューギニアのマノクワリに出征した役者・市川莚司(後の加東大介。「7人の侍」の一人)が、絶望的な戦況の中、三味線弾きや歌手、僧侶、デザイナー、脚本家などが本職の兵士たちを集めて「マノクワリ歌舞伎座」を結成し、演劇を通じて飢餓や病気に苦しむ将兵を勇気付ける物語。1961年、第20回文藝春秋読者賞受賞。同年映画化。

 彼らが取り残されたのは、本土からの補給も断たれ、食料も医薬品も欠乏した瘴癘の地。兵士たちは敵の攻撃を待つまでもなく、栄養失調やマラリアでばたばたと死んでいく。そんな絶望的な世界を舞台にしたこの物語が、それでも不思議な明るさを宿すのは、あり合わせの人的・物的資源で見事な劇団を結成した著者らの創意工夫や努力と、何より危機的な状況に負けない著者の快活な精神によるものだろう。

 ところで、この本の中盤に、「ワルバミ農場隊」という部隊が登場する。東部ニューギニア戦で敗れたこの部隊は、マノクワリ周辺で最も気候が悪く土地の痩せた、ワルバミという山奥の地に駐屯させられ、しかもぎりぎり最低限の補給しか与えられなかった。軍は、負け戦の味を知ったこの部隊を内地に帰そうとせず、飢えとマラリアでじわじわと死滅させるつもりだったのだ。

 このような過酷な状況に置かれたワルバミ部隊が著者らに見せる、どこか透徹した奇妙な「朗らかさ」は読む者の胸を打つ。なお、この部隊のプロフィール(「もともとは、東部ニューギニアにいた独立工兵隊らしい。それが、濠州へ出撃する途中で補給がつづかず、ついに涙をのんで後退した」)を見ると、彼らはポートモレスビー攻略戦に参加した独立工兵第15連隊の一部だったのではないか。とすると、かつてはマレー戦で鮮やかな活躍を見せたこの部隊は、その後、人知れずニューギニアの山中に朽ち果てなければならない運命だったのだろうか。戦争の非情な一面に暗然とする。

posted by A at 00:13| 本(戦記) | 更新情報をチェックする