2019年12月29日

【本】石原俊「硫黄島 国策に翻弄された130年」

「硫黄島 国策に翻弄された130年」 石原俊/中公新書/2019年

 明治期の領有・入植から旧島民の戦後の暮らしまで、硫黄島にまつわる近現代の通史を描いた本。

 太平洋戦争中の激戦で知られる硫黄島について、どのように日本人が移住・プランテーション化したのか、住民たちが島でどんな生活を送っていたのか、それを戦争がどう変えたのかなどを追った一冊である。現代ではほとんど知られていない戦前の硫黄島社会の実態を、さまざまな史料と旧島民の証言を踏まえて明らかにしており、何年にもわたってこのテーマを研究してきた著者の労力の膨大さが窺われる内容となっている。

 本書によれば、昭和初期の硫黄島では、拓殖会社による労働・生活全般への厳しい管理統制が行われながらも、島民たちは比較的豊かな食生活を送っていたという。それは、会社での労働のほかに、農業・畜産・漁業などにより自給用の食糧を十分に確保できていたためなのだそうだ。両親が拓殖会社の小作人だったというある旧島民は、「島では贅沢しましたよ。最高に、贅沢しましたね。肉も不自由したことありません。食料にも不自由したことないです」との証言を残しているが、プランテーションの小作人という境遇からはややかけ離れた印象の発言であり、少々面食らう部分もある。恵まれた硫黄島の自然環境が、それだけ食料の獲得・生産に向いていたということなのだろうし、戦時中に強制疎開させられた島民たちが、戦後も帰還を望み続けた理由の一端を垣間見たようにも思った。


posted by A at 00:10| 本(新書(その他)) | 更新情報をチェックする