2017年10月01日

【本】山本茂実「塩の道・米の道」

「塩の道・米の道」 山本茂実/角川文庫/1978年

 著者が昭和30年代後半に国内各地を取材し、雑誌「旅」「地上」「文藝春秋」などに発表したルポルタージュ19本を、一冊の本にまとめたもの。

 著者自ら全国津々浦々を歩き、自分の目で実地に見たこと・感じたことを書き著したレポート集である。「流氷と流刑の道・網走街道」や「匠たちの故郷・飛騨路」のように、各編のタイトルにはそれぞれ「道」の名前が付されているが、道に関する話に限らず、各地の様子を面的に捉えた作品も少なくない。それぞれの地域にまつわる悲哀の歴史や、当時の社会的な問題にも正面から取り組んでおり、硬派なノンフィクション作品集といった趣の一冊である。

 本書の各編を読むと、ソ連の不当な拿捕・抑留と闘いながら漁をつづけるノサップの漁民たちの苦労や、日本初の高速道路である名神高速道路の用地買収に関する紛争劇、あるいは、平家の落人の末裔がひっそりと暮らしてきた九州の山村が、自動車道やダムの建設で大きく変貌していく様子など、昭和30年代の社会の情景が丁寧に描出されている。このような血の通ったルポルタージュは、実際に各地を歩いて回り、人々の証言を丹念に集めた著者だからこそ書けたものだろう。事実関係の正確性をやや欠いた部分もないわけではないが、総じて見れば、著者の精力的な仕事ぶりが光る作品群だった。

 なお、本書に所収された作品の一つ「女工哀史の道・野麦峠」は、著者の代表作である「あゝ野麦峠」の原型となったものである。その内容は、年老いた女工たちから聞き取った悲話や、著者自身が実際に野麦峠を歩いてみた記録を、20ページ弱でごく簡単にまとめた構成となっている。こんなスケッチ風の小作品が、やがては著名なノンフィクションの大作につながっていった事実を見ると、作家の琴線に触れるテーマというものは、どこから掘り起こされるか分からないものなのだな、と思えて興味深かった。


posted by A at 23:43| 本(ノンフィクション) | 更新情報をチェックする