2017年01月15日

【本】村瀬秀信「4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史」

「4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史」 村瀬秀信/双葉文庫/2016年
(初版は、2013年に双葉社から刊行)

 大洋ホエールズ・横浜ベイスターズの球団史を、多くの関係者の証言を元に描き出したノンフィクション。

 著者の熱い大洋・横浜愛をひしひしと感じる、出色のノンフィクションである。古今の関係者たちへの濃密なインタビューを積み重ね、それに著者自身の記憶や思い入れも付け足して、球団への愛情にあふれたクロニクルが綴り上げられている。横浜ファンでなくとも、プロ野球ファンであれば十二分に楽しめる作品である。

 本書によれば、大洋ホエールズという球団のおおらかで大ざっぱな気風は、親会社が大洋漁業(マルハ)だったことに由来する面があったようである。「遠洋漁業は命懸けで漁に出るわけです。だから、一艘の船に乗った人間は、みんな命を預かった家族。だからみんな仲良く、一致団結しようということですよ」(土井淳)、「まあ、当時は選手獲得も、『クジラ一頭獲れればいい』って感覚ですからね」(平松政次)、「昨日まで船に乗って魚獲っていた人が、次の日に選手を獲ってんだからね(笑)」(近藤昭仁)、「大洋漁業って船乗りの集まりじゃないですか。チームがひとつの船というんですかね。大洋ホエールズという船に、監督という船長がいて、船員である選手みんなが乗っている。そんな雰囲気が色濃かった気がしますね」(遠藤一彦)などという証言は、良くいえば鷹揚、悪くいえばルーズで甘い大洋球団の体質と、確かに重なり合うものであるように思えた。

 その後、大洋ホエールズは、横浜ベイスターズへの球団名変更、1998年の日本一、TBSによる買収などを経て、2000年代の壮絶な暗黒時代を迎える。この時期の球団について、著者は、球団を食い物にしていた人間や、澱んだ空気の発生源になっていたスタッフの存在を仄めかす書き方をしているが、その詳細については突っ込んだ記述をしていない。球団がどうして支離滅裂な状態に至ったのか、その要因を知りたいと思う読者にとっては、このあたりの展開はやや消化不良の感が否めないかもしれない。ただ、こうした原因追及や犯人の糾弾を詳しく進めていくと、おそらく本書はかなり雰囲気の違う、重苦しい一書になっていたのではないかと思う。この辺の闇にあえて深入りせず、軽妙な筆致を貫いた著者の判断は、作品の完成度を高める意味では、おそらく正解だったのだろう。

 現在、球団のオーナーはDeNAとなり、球団の体質や運営方針は、見違えるほど改善されてきているように見える。著者に代表されるような、どんなに弱くても決して大洋・横浜を見捨てなかったファンたちも、きっと大きく勇気づけられているのではないか。彼らの熱い球団愛が、いつか報われることを祈らずにはいられない、そんな思いにさせられた一冊だった。

posted by A at 13:12| 本(ノンフィクション) | 更新情報をチェックする