2016年04月10日

【本】川口琢司「ティムール帝国」

「ティムール帝国」 川口琢司/講談社選書メチエ/2014年

 14〜15世紀ごろの中央アジアに覇を唱えたティムール帝国の、歴史や政治構造、文化などについて概説した一書。

 「マー・ワラー・アンナフル」と呼ばれるオアシス地帯から勃興し、小アジアからインドにまたがる大帝国に発展した、ティムール帝国の足跡を追った本である。著者の言を借りれば、ティムール帝国は「室町時代のわが国と直接的なつながりをまったくもたなかった」こともあり、日本において広く関心を持たれているとは言いがたい。そうした帝国の歴史や国家像などを、中央ユーラシア史の専門家である著者が、一般向けに平易に解説しようと試みたのが本書である。

 まず、本書の第1章から第3章では、希代の英傑ティムールがどのようにこの大帝国を建設していったのか、その過程が詳述されている。こうした勢力興隆の時期は、歴史ドラマなどでは最も興味を惹く場面であるが、いかんせん高校世界史レベルの知識では聞き慣れない人物名や勢力名が頻出し、正直なところ、本書を読んでいても内容がさっぱり頭に入ってこない。ウィキペディアの「ティムール」、あるいは「ティムールの征服戦争」の項で、関連項目を参照しながら知識を仕入れた方が、全体像はつかみやすいかもしれない。

 ただ、帝国周辺勢力との激しい攻防の様子を眺めていると、様々な王朝や遊牧民族が入り乱れる中央アジア地域で、このような一大帝国を建設することがいかに困難な事業であったかを、ひしひしと実感することはできる。こうした覇権国家の出現は、やはりティムールという一代の英雄による、偶発的な産物の側面が強いのではないか。彼の死後、帝国の権力が、帝都を中心とする中央政権と複数の地方政権に事実上分散し、やがて分裂・滅亡の途を辿っていったことは、この複雑な地域で継続的に帝国を運営していくことの困難性を物語るものではないかと思えた。

 また、本書の後半では、ティムール及び彼の帝国が、どのように自らの権威の正統性を構成・主張していったかについて、詳しく解説がなされている。ティムール帝国がチャガタイ・ウルスフレグ・ウルス、つまりモンゴル帝国を継承する国家であると位置づけたり、時には系図を創作したりもしながら王権の大義名分を整えていく過程は、歴史上の権力者たちが行ってきた、他のいくつかの類例を想起させるものでもある(たとえば、モスクワ大公国がローマ帝国の後継を自任したり、徳川氏が新田氏の後裔を自称したりした例など)。このような権威の箔付け作業に見られる、洋の東西を問わない不思議な類似性・共通性は、読んでいて興味深い部分である。


posted by A at 13:09| 本(歴史) | 更新情報をチェックする