2015年06月28日

【本】浅生鴨「中の人などいない」

「中の人などいない @NHK広報のツイートはなぜユルい?」 浅生鴨/新潮文庫/2015年
(単行本は、新潮社から2012年に刊行)

 ゆるい企業広報ツイッターとして絶大な人気を誇ったNHK広報局(@NHK_PR)の初代担当者が、アカウント運営の舞台裏を明らかにした本。

 親しみやすいツイートで膨大なフォロワーを集めたNHK広報ツイッターの、開設経緯や管理の内情を著した本である。それにしても、ツイートのゆるさとは裏腹に、著者は相当肝の据わった人物なのではないかと思わせられる。あれだけの大組織の顔とも言える広報アカウントを、著者は、お堅い組織イメージにとらわれることなく、自由自在に運営してみせている。アカウントへの批判が容易に会社への批判に転化し、上司や所属部署にも累が及ぶ事態になりかねない環境の中で、これだけ大胆にツイッターの運用を行うことは、生半可な度胸ではできなかったのではないかと思う。このアカウントの成功は、やはり著者個人の柔軟な発想や胆力に負うところが大きく、組織としてこの水準のものを継続していくことは、正直なかなか難しいのではないか。

 本書の最後で、著者は「もう一度、ちゃんと外の人になろうと思った」と述べてNHKを辞職している。組織に勤める人々の中には、さしたる迷いもなく組織の価値観を自分の価値観とし、組織と一体化して振る舞うような人が少なくない(例えば、有名企業に勤めているというだけで大きな顔をするような類の人々)。これに対して、組織に精神的に依存せず、組織の価値観にも容易に同化しない傾向の人も、数としては少ないながら存在するように思う。おそらくは後者のタイプであろう著者が、NHKの看板を掲げ、会社を代表するような立場で活動し続ければ、NHKという組織に所属すること自体に、ある種の倦怠感を覚えることはあり得るのかもしれない。転職という著者の判断は、個人的には自然なものであるように思えた。

posted by A at 12:40| 本(その他) | 更新情報をチェックする