2015年04月29日

【本】大森望・豊ア由美「文学賞メッタ斬り!」

「文学賞メッタ斬り!」 大森望・豊ア由美/ちくま文庫/2008年
(単行本は、PARCO出版から2004年に刊行)

 評論家・書評家の著者二人が、芥川賞・直木賞といった大どころから地方の無名文学賞まで、有象無象の文学賞について遠慮なく論評した一書。

 刊行当時によく売れ、人気シリーズにもなった文学賞評論本である。元々の執筆目的は、世間に数多存在する文学賞の紹介・解説だったらしいけれど、各賞の選考過程や選考委員の実態についても容赦なく筆誅が加えられており、むしろそうした毒舌の方が面白い。石原慎太郎や宮本輝、津本陽といった大作家に威厳のない渾名をつけたり、「文学が読めていない」「そもそも候補作を読まずに選考している」などという身も蓋もない講評が行われたりしていて、よくこんなことを公刊本で書けたな、と感心させられるばかりだ。

 読者の側としても、大御所や新進気鋭の作家たちがバッサバッサと切り捨てられていく有様を見ると、なんとなく根拠のない優越感に浸ることができて楽しい。そうした密かな悦びも、この本をヒットさせた理由の一つなのかもしれない。ただ、クリエイティブな才能など全くない私のような読者が、産みの苦しみを引き受けながら執筆をつづけている小説家たちを、馬鹿にする資格など本来ないのかもしれない。愉快な気分で読めた本だけれど、なんとなくほろ苦い読後感もないわけではなかった。

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2015年04月04日

【本】斉藤光政「偽書「東日流外三郡誌」事件」

「偽書「東日流外三郡誌」事件」 斉藤光政/新人物文庫/2009年
(単行本は、新人物往来社から2006年に刊行)

 戦後最大の偽書事件と言われる、「東日流(つがる)外三郡誌」事件の追及過程を詳述したルポルタージュ。

 かつて東北最奥部に一大政権があり、世界各国との貿易で大いに繁栄したとする偽書、「東日流外三郡誌」の不審な点を丹念に検証し、これが捏造されたものであることを解き明かした作品である。著者は青森県の地元新聞社「東奥日報」の記者であり、同紙上で追及キャンペーンを張り続け、「東日流外三郡誌」が偽書であるという評価の定着に大きな貢献を果たしている。

 この「東日流外三郡誌」は、膨大な「古文書」がなぜか発見者の和田喜八郎と同じ筆跡で書かれている、「古文書」になぜか近年の歴史研究の成果が反映されている、文書の中に最近の言葉遣いで書かれた箇所がある、「こんな内容の文書があったらいいのに」という注文を受けたら本当にそういう文書が「発見」される、発見者の和田が頑として文書の原本を公表せず、文書の発見場所にも立ち入らせないなど、どこからどう見てもいかがわしい代物である。そんな怪しい文書が広い支持を集めてしまったのは、本書でも言及されているように、その内容が魅力に富むものだったためだろう。かつて大和朝廷の侵略の対象となった東北地方にも、実は大和にひけを取らないグローバルな政権が繁栄していたというストーリーは、著者の言うとおり、確かに一部の東北人の心の隙間に入り込むものであったに違いない。

 しかし、いくら過去の歴史が美しく都合の良いものであることを願ったとしても、捏造された事実を振り回すような行為に手を染めれば、自らの主張・言動への信頼を失うばかりか、誤解して同調した支持者の見識にも疑問符が付けられることになり、結局、自他にとって有害な結果しか招き得ない。このような、事実の歪曲者に向き合う心構えを、「東日流外三郡誌」の疑惑追及の急先鋒に立った元産能大学教授・安本美典は、以下のように説いている。

「私たちは、ともすれば、優しい心をもつ。だれに対してでも、優しくありたいと願う。そして、ともすれば、常識性のなかで、ことを判断し、処理したいと願う。できれば、あらそわずに、事をおさめたいと願う。しかし、この優しい精神は危険である。常識性を、はじめから無視する人、あらそいを厭うよりもむしろ好む人は、この優しさに乗じて、人心を支配する。優しさのゆえに、沈黙してはならない。独断と、歪曲と、ゆえなき批判攻撃とに、真実にいたる道をゆずってはならない」

posted by A at 14:38| 本(ノンフィクション) | 更新情報をチェックする