2014年11月22日

【本】金邦夫「金副隊長の山岳救助隊日誌」

「金副隊長の山岳救助隊日誌 山は本当に危険がいっぱい」 金(こん)邦夫/角川学芸出版/2007年

 警視庁青梅警察署山岳救助隊の副隊長として、長年にわたって奥多摩で山岳救助に携わってきた著者が、平成14年から18年ごろにかけての救助活動の様子を、自分の感想や意見を交えながら綴った本。

 奥多摩の山は標高も低く、都心から近いこともあって、気軽に登山に来ることができる。そのため、安易な気持ちと不十分な装備で山に入った登山客が遭難事故を起こし、救助を求めてくる場合がある。ひどい時は、日没や疲労を理由に救助要請を行うハイカーもおり、そのたびに山岳救助隊が出動させられることになる。著者は本書の中で、登山客の軽装ぶりや心構えの甘さに繰り返し苦言を呈しているけれど、いくつかの遭難記録を読む限り、著者が怒るのは当然と思えた。

 ただ、そうした手厳しい指摘を含みながらも、本書の読後感は決して悪くない。それは、著者が山に対して抱く温かい感情が、本書を通底して流れているからではないかと思う。「仙人」と呼ばれるユニークな山小屋管理人とのやり取りや、廃集落の幻の滝を訪ねる記録は読んでいて愉しいし、四季折々の自然をいとおしむ文章は、著者の繊細な審美眼をうかがわせるものである。救助した遭難者に対しても、その行動の甘さを指摘しつつも、「山に登るということは素晴らしいことなんだけど、自然に挑戦するには危険が伴う。それなりの装備と知識がなければだめだ」と教え諭したり、「山を志す若者を失いたくない」と、負傷者の回復を心から祈ったりする。そこにあるのは、言葉はぶっきらぼうでも心根は優しい、古きよき「山ヤ」の姿である。

2014年11月02日

【本】魚谷祐介「日本懐かし自販機大全」

「日本懐かし自販機大全」 魚谷祐介/辰巳出版/2014年

 今では絶滅危惧種となってしまった、うどん・そば、ハンバーガー、トーストサンドなどのレトロ自販機の現状を調査し、その設置場所などを紹介した本。

 昭和の香りが漂うフード自販機への、濃密な愛情にあふれた本である。現在ではすっかり見かけなくなってしまった懐かしい自動販売機たちを、全国規模で地道に調べ上げ、その設置店舗や機種、オーナーへのインタビュー、機械を修理する職人さんとの対談まで含めて掲載している。ちなみに、今でも現役で稼働しているうどんやそばの自販機は、全国でわずか約80台。ハンバーガーの自販機に至っては10数台、トーストサンドもたった20台弱で、いずれの機械も既に製造が中止されているのだそうだ。現存する自販機たちに残された時間も、もう決して長くはないのかもしれない。

 また、本書の下敷きになった著者のサイトでは、レトロ自販機が設置されているドライブインなどへの訪問記録を、動画でも紹介している。その分量の多さに著者の労力がしのばれるが、例えば、全国で2台しか残っていない津上弁当自販機を訪ねる動画は、郊外の夕景と、著者の叙情的な自作BGMがうまくマッチしていて、雰囲気のある作品に仕上がっている。

 かつてこれらの自販機が、当たり前のように日常に溶け込んでいた時代があった。近所の自販機コーナーで、あるいは家族で立ち寄った山間のドライブインで、クリーム色の安っぽいプラスチック容器に入ったうどんを、妙に短い割り箸で食べた記憶が私にもある。あのころはさして美味いとも思わなかったうどんも、もう簡単に出会うことはできないのだと気づくと、どことなく切ない思い出に変わってくる。これら昭和の名自販機は、過ぎてしまった懐かしい時代の記憶を呼び起こす、一種の触媒装置なのかもしれない。

posted by A at 11:59| 本(その他) | 更新情報をチェックする