2014年04月06日

【本】小林照幸「政治家やめます。」

「政治家やめます。ある国会議員の十年間」 小林照幸/角川文庫/2010年
(初版「政治家やめます。ある自民党代議士の十年間」は、2001年に毎日新聞社から刊行)

 心ならずも二世政治家の道を歩むことになった国会議員が、永田町や地元選挙区の混乱に巻き込まれ、ついに政治家引退を決断するまでの経緯を描いたノンフィクション。

 久野統一郎という、衆議院議員を3期10年務めた国会議員の物語である。真面目な性格で、およそ政治の世界には無縁だった久野氏は、長く政治家を務めた父・久野忠治の策略によって、不本意ながらも国政選挙に担ぎ出されてしまう。そして、どうにか選挙戦を勝ち抜いた彼は、橋本龍太郎などの大物政治家にかわいがられたこともあり、早くから自民党副幹事長、2度の政務次官、政調の部会長を務めるなど、意外なまでに順風満帆な政治家人生を送ることになった。その一方で、政治の世界の不条理を見せつけられる機会も度重なり、こうした政治の醜い部分にとうとう嫌気が差した彼は、「自分は政治家に向いていない」という理由で、あっけなく引退を決意してしまうのだった。

 彼が議員引退に踏み切った直接的な理由としては、地元の半田市長選挙が分裂選挙になり、支持層の一部から強い恨みを買ってしまったことと、これまで公明党を厳しく批判してきたにもかかわらず、政権維持のために自公連携が成立してしまったことの二点が挙げられるのだろう。特に前者は、彼自身の次の選挙を危うくさせる重大な事件だった。本書には、この市長選の際に彼に送り付けられた「脅迫状」の数々が収録されているが、中には書き手の人格が疑われるような、かなり醜悪な中傷も含まれている。

 誰が首長や議員に当選するかによって生活が左右される人々が、目の色を変えて選挙運動に取り組むことは、ある意味では当然のことなのかもしれない。しかし、こうした熱意が行き過ぎて誹謗中傷に走った結果、大臣の椅子を狙えるような有望な政治家を引退に追い込んでしまったのだとしたら、それは選挙民自身にとっても、損失以外の何物でもないのではないか。政治家という存在は簡単に貶されがちだけれど、有権者の側がもう少し長い目で優秀な政治家を育てるつもりにならなければ、結局損をするのは選挙民、ひいては国民自身になるケースもあるのではないか、と思った。

posted by A at 17:12| 本(ノンフィクション) | 更新情報をチェックする