2013年10月14日

【本】ばるぼら「教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書」

「教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書」 ばるぼら/翔泳社/2005年

 日本のインターネット草創期から2004年頃までの、ネット文化の興隆と発展の経緯を詳述した本。

 「これはものすごい本である」――巻末の解説に記された大森望氏のこの一言が、本書の業績の偉大さを明快に物語っている。90年代初頭以降、インターネットの世界でどんな人々がどんなサイトを立ち上げ、それがどのような影響を及ぼしていったのかについて、驚異的な綿密さで記録した一書である。その恐るべき情報量と質を目の当たりにすれば、著者が執筆に費やしたであろう時間と労力の膨大さに、ただ頭を下げずにはいられなくなる。

 「教科書には載らない――」と銘打たれている通り、本書は、インターネットをめぐる政治や経済の動きなどではなく、名もなきユーザたちが作り上げたサイトの数々や、そこから派生したサブカル的なムーブメントの説明に主眼を置いて編集されている。こうした書物は、ややもするとマニアックな事実の羅列になりがちであり、予備知識のない読者にとって、本書は決して面白い読み物ではないかもしれない。しかし、我が国のインターネット文化史を振り返るにあたり真に注目しなければならないのは、まさにこういったネット上のリアルな活動記録であろう。将来において、インターネット勃興時代のユーザが何を考え、どうネットを活用したのかを検証する際に、本書は必要不可欠な基礎資料となるに違いない。

 本書刊行後も、インターネットの世界にはtwitterや各種SNSが登場するなど、極めてドラスティックな変化が続いている。SNSの普及によりネット上の発信主体が拡散する中で、もはや本書のような形でのネット史の編纂は難しいのかもしれないけれど、ともかく、ネット黎明期に著者のような卓越した記録者が存在したことは、日本のインターネット史上において、大きな僥倖であったと言えるのではないか。

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2013年10月13日

【本】山本益博「味な宿に泊まりたい」

「味な宿に泊まりたい」 山本益博/新潮文庫/1998年

 料理評論家として知られる著者が、全国の高級旅館・老舗旅館の中から、料理自慢で風格のある宿を吟味して紹介した本。

 本書に登場するのは、京都の「俵屋旅館」を始めとした、庶民には容易に手が出ないような高級旅館の数々である。上等な食材をふんだんに使った料理や、贅を尽くした宿の施設、細かいところまで配慮の行き届いたサービスなどを見るにつけ、個人的には全く縁のない別世界の話と思うほかない。ただ、過剰な気配りに否定的だったり、途中で立ち寄った街角のラーメン屋も美味しければ褒めたりするなど、金銭的価値の高低にとらわれない著者の率直な講評は、なかなか小気味良いものであるように思えた。

 ネットで調べる限り、著者の言行には一部で批判があるようである。そうした噂の真偽はよく分からないが、さまざまな料理や旅館の美点を端的に捉え、その魅力を分かりやすく伝える著者の技術は、このような批判とは切り離して評価すべきものであろう。高級料理に臨むとき、どういう着眼点で料理に向き合えばよいか、あるいはハイグレードなサービスをどのように受け止めればよいか。私のように、美食の世界には何の興味も知識もなかった人間にとっては、そういった基礎をうかがい知る参考書にもなる一書である。

posted by A at 09:07| 本(その他) | 更新情報をチェックする