2012年05月27日

【本】林えいだい「陸軍特攻 振武寮」

「陸軍特攻 振武寮」 林えいだい/光人社NF文庫/2009年

 太平洋戦争末期、いったん特攻に出撃しながら敵艦突入を果たせなかったパイロットたちを収容・監禁した「振武寮」についてのルポルタージュ。単行本は、2007年に東方出版から刊行。

 昭和20年春。日本陸軍の第六航空軍は、沖縄占領を目指す米軍の艦艇に攻撃を加えるため、九州各地の航空基地から特別攻撃隊を進発させていた。しかし、陸軍のパイロットは長時間の洋上飛行に慣れていない上、速成教育されたパイロットの技量も未熟であり、そもそも特攻に使う飛行機も粗悪品で故障が続発する有様だった。このため、せっかく出発させた特攻機が沖縄に辿り着かず、薩南諸島の島々に不時着するケースが相当数に上る事態となった。

 このような状況を前にして、第六航空軍は、生還パイロットたちの処遇に頭を痛めることになった。「軍神として華々しく送り出したはずのパイロットが実は生きている」という事実が知られてしまうと、将兵や国民の士気にかかわる、というのが軍の冷酷な論理だったのだ。結果的にパイロットたちは、福岡女学院の寄宿舎を接収して設置された「振武寮」という施設に隔離され、参謀に口汚く罵倒されながら、軍人勅諭の筆写などの精神教育を強要されることになるのだった。

 本書は、こうした「振武寮」をめぐる元パイロットたちの思いや、特攻をめぐる葛藤、そして「振武寮」でパイロットたちを強圧的に指導した元参謀の言い分などを詳しく解き明かした一書である。特に、「振武寮」の立ち上げ・運営を事実上主導した参謀、倉澤清忠少佐へのインタビューは注目に値する。これを読むと、参謀にも参謀なりの弁解があったことが窺われるが、しかし、「生きていること自体が不都合」とされた生還パイロットたちの強烈な怒りの前に、それらの釈明はおよそ力を持つことはないのだろうと思わざるを得なかった。

(追記)
 「陸軍飛行第244戦隊 調布の空の勇士たち」さんというサイトに、「振武寮の虚構」という考察が掲載されている。「ある映画や出版物が広めた振武寮のストーリーは明らかに針小棒大であり、虚構に近いものだ」とする意見も一考の価値があると思われるので、ここに紹介させていただく。

posted by A at 10:47| 本(戦記) | 更新情報をチェックする

2012年05月26日

【本】黒岩よしひろ「変幻戦忍アスカ」

「変幻戦忍アスカ」 黒岩よしひろ/集英社/1989年

 1988年に「週刊少年ジャンプ」に連載された、黒岩よしひろによるファンタジー漫画。全二巻。

 ふと懐かしくなって、小学生の頃にジャンプで連載を読んで以来、20年以上ぶりにこの作品を読み返してみた。80年代の匂いが色濃く漂う作画が、今となっては非常に懐かしい。作者の黒岩よしひろは、Wikipediaに「『打ち切り作家』の代表的存在として知られ」と書かれているが、本作も連載20週に届かず打ち切りとなってしまい、当時は残念に思ったものだった。

 大人になってから改めて読んでみると、やはり、この作品の内容には少し物足りなさを覚えてしまう。「絶対的な悪と戦う」というストーリーはやや平板で、ジャンプが想定する読者層よりは、もう少し低年齢の子供たち向けのものだったのかもしれない。また、物語上に仕掛けられる舞台装置やギミックは、趣向が凝らされていて面白いのだけれど、少年向けとしてはちょっと複雑すぎるかな、と感じることもあった。こうした部分が作品にややちぐはぐな印象を与え、物語への感情移入を阻む結果になってしまっているのではないか、と思えた。

 しかし、この漫画の登場人物は現在でも十分に魅力的だ。特に主人公の造形は、後のいくつかの有名作品における登場人物のプロトタイプになったのではないかと思えるほどだ。本作は打ち切り作品でありながら、単行本刊行から実に16年後、2005年になって竹書房から再刊されているが、それはこの作品に光る「何か」があったことの証明ではないかと思う。作者が描きたいものと、世間が求めるニーズとがうまく合致して、また作者の作品が世に出る日が来ることを祈っている。

posted by A at 23:59| 本(その他) | 更新情報をチェックする