2010年02月13日

【本】ウェストン「日本アルプスの登山と探検」

「日本アルプスの登山と探検」 ウェストン/岩波文庫/1997年
(原著“MOUNTAINEERING AND EXPLORATION IN THE JAPANESE ALPS”は、1896年に英国にて刊行)

 明治時代に宣教師として日本を訪れた英国人、ウォルター・ウェストンが、日本アルプスをはじめさまざまな山に登った記録を綴った本。

 「日本アルプス」の名を内外に知らしめた、ウェストンによる紀行文である。スイスアルプスのマッターホルンなどに登頂した経験を持つウェストンは、19世紀末から20世紀初頭にかけて三度来日し、各地の山々に足跡を残している。本書には、槍ヶ岳、穂高岳、乗鞍岳、笠ヶ岳、白馬岳、常念岳、立山、御嶽山、浅間山などに登った模様が描かれており、それらの山のいくつかは、外国人による初登であった。

 それにしても、ウェストンは驚くべき健脚の持ち主である。例えば本書には、1894年夏、奥飛騨の中尾から穴毛谷を経て笠ヶ岳(2898m)まで日帰りで往復した記録が紹介されている。以前私も笠ヶ岳に登ったことがあるのだけれど、笠新道という登山道がひたすら長くて、随分苦労した思い出がある。まだ登山道もない時代、写真機のような重装備を担いで、困難な行程を往復したウェストン一行の体力と技量には、ただ恐れ入るばかりである。

 また、地理・博物学者の一面も持つウェストンは、登山の際に見た地勢、植生、気候、鉱物などについても詳細な記録を残している。例えば笠ヶ岳の章には、「双六川の谷に落ちこんでゆく左手の斜面は、ほとんど這松で蔽われている」という記述がある。この一文を読んで、100年以上前にウェストンが見た風景と、何年か前に自分が眺めた風景は、ほとんど変わっていないんだなあ、と思えて少し嬉しくなった。

 このほかウェストンは、各地の山々へ出かける途中で目にした、明治中期の日本の習俗をかなり詳しく描写している。記述の分量としては、登山記録よりもむしろこちらの方が多いかもしれない。まだ「文明開化」の波が十分に届いていない山村の宿屋の主人が、初めて会う外国人の著者一行に驚きつつも心づくしのもてなしをして、一行への遠慮から僅かな宿泊料しか受け取ろうとしない様子や、逆に外国人と見て大いに吹っかけてくる人力車の車夫たちなど、当時のさまざまな日本人像が浮き彫りにされていて興味深い。