2009年01月31日

【本】佐藤優「国家の罠」

「国家の罠」 佐藤優/新潮社/2005年

 外交官の著者が、いわゆる鈴木宗男事件で逮捕され、東京地検で取り調べを受け、起訴されるまでを詳細に記した本。第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。

 一読して、とにかく展開の面白さに引き込まれる。著者と取り調べ担当の西村検事との間で繰り広げられる、スリリングで生々しいやり取り。著者は、外交官としての辣腕ぶりや思想家としての側面がクローズアップされがちだが、ストーリーテラーとしても抜群の力量の持ち主である。

 また、拘置所での生活も克明に記録されていて、なかなか興味深い。512日間を過ごした独房での暮らしの様子や弁護士との面会状況、看守とのやり取りに至るまで、著者の観察眼と記録には舌を巻くばかりだ。著者の描写にかかれば、拘置所の食事までもが実に美味しそうに思えてくる。

 いわゆる「国策捜査」(これは、自分を「国家の敵」として飾り立てられる便利な概念であり、近年やや濫用傾向にあると思うけれど)に関する、西村検事による分析も、なるほどと思わせられるものがあった。

 ただ、事件に関する記録については注意を要する。そもそもこの本は事件の一方当事者の手によるものであって、中立的な第三者が客観的な事実を明らかにすべく著したものではない。事件の真実を知りたいと考えるならば、事実認定をこの本のみに依存するのは危険であり、別の視点からの情報・主張も調べる必要があるだろう。

 ところで、ひょんな偶然から、一度だけ西村尚芳検事を間近でお見かけしたことがある。作中、「ドラえもん」検事という仇名を奉られた八木検事(前東京地検特捜部長)が登場していたが、西村検事もなかなか雄大な体格を持ち、また明るく人懐こい雰囲気を感じさせる人物だった。著者の心を掴んだのは、西村検事の明晰な頭脳や仕事ぶりもさることながら、その懐の深い人格の為せる業であったのではないかと拝察した。

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2009年01月25日

【本】加東大介「南の島に雪が降る」

「南の島に雪が降る」 加東大介/文藝春秋新社/1961年
(光文社知恵の森文庫版(2004年)で読みました)

 太平洋戦争中、一下士官として西部ニューギニアのマノクワリに出征した役者・市川莚司(後の加東大介。「7人の侍」の一人)が、絶望的な戦況の中、三味線弾きや歌手、僧侶、デザイナー、脚本家などが本職の兵士たちを集めて「マノクワリ歌舞伎座」を結成し、演劇を通じて飢餓や病気に苦しむ将兵を勇気付ける物語。1961年、第20回文藝春秋読者賞受賞。同年映画化。

 彼らが取り残されたのは、本土からの補給も断たれ、食料も医薬品も欠乏した瘴癘の地。兵士たちは敵の攻撃を待つまでもなく、栄養失調やマラリアでばたばたと死んでいく。そんな絶望的な世界を舞台にしたこの物語が、それでも不思議な明るさを宿すのは、あり合わせの人的・物的資源で見事な劇団を結成した著者らの創意工夫や努力と、何より危機的な状況に負けない著者の快活な精神によるものだろう。

 ところで、この本の中盤に、「ワルバミ農場隊」という部隊が登場する。東部ニューギニア戦で敗れたこの部隊は、マノクワリ周辺で最も気候が悪く土地の痩せた、ワルバミという山奥の地に駐屯させられ、しかもぎりぎり最低限の補給しか与えられなかった。軍は、負け戦の味を知ったこの部隊を内地に帰そうとせず、飢えとマラリアでじわじわと死滅させるつもりだったのだ。

 このような過酷な状況に置かれたワルバミ部隊が著者らに見せる、どこか透徹した奇妙な「朗らかさ」は読む者の胸を打つ。なお、この部隊のプロフィール(「もともとは、東部ニューギニアにいた独立工兵隊らしい。それが、濠州へ出撃する途中で補給がつづかず、ついに涙をのんで後退した」)を見ると、彼らはポートモレスビー攻略戦に参加した独立工兵第15連隊の一部だったのではないか。とすると、かつてはマレー戦で鮮やかな活躍を見せたこの部隊は、その後、人知れずニューギニアの山中に朽ち果てなければならない運命だったのだろうか。戦争の非情な一面に暗然とする。

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2009年01月02日

アバウト

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 読んだ本の感想を書きとめるブログです。月に5〜10冊くらいの本を読み、その中から一部を選んで雑感を書いています。
 管理人自身の仕事とは全く関係のない立場で、個人的に勝手にやっているものです。

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 過去に取り上げた本の一覧はこちら


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2009年01月01日

取り上げた本一覧

【ノンフィクション、それに類するもの】
1989年のテレビっ子」 戸部田誠/双葉社/2016年
4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史」 村瀬秀信/双葉文庫/2016年
人物ノンフィクションT 一九六〇年代の肖像」 後藤正治/岩波現代文庫/2009年
熊を殺すと雨が降る」 遠藤ケイ/ちくま文庫/2006年
牙 江夏豊とその時代」 後藤正治/講談社文庫/2005年
偽書「東日流外三郡誌」事件」 斉藤光政/新人物文庫/2009年
雲は答えなかった 高級官僚 その生と死」 是枝裕和/PHP文庫/2014年
地方の王国」 高畠通敏/講談社学術文庫/2013年
政治家やめます。」 小林照幸/角川文庫/2010年
昭和の妖怪 岸信介」 岩見隆夫/中公文庫/2012年
戦争 虚構と真実」 尾川正二/光人社NF文庫/2013年
こんな夜更けにバナナかよ」 渡辺一史/北海道新聞社/2003年
巨魁」 清武英利/WAC/2012年
甘粕正彦 乱心の曠野」 佐野眞一/新潮文庫/2010年
人物ノンフィクションV 孤高の戦い人」 後藤正治/岩波現代文庫/2009年
東京大学応援部物語」 最相葉月/集英社/2003年
獄窓記」 山本譲司/ポプラ社/2003年
人物ノンフィクションU 表現者の航跡」 後藤正治/岩波現代文庫/2009年
異色官僚」 佐橋滋/ダイヤモンド社/1967年
サルになれなかった僕たち 〜なぜ外資系金融機関は高給取りなのか〜」 ジョン・ロルフ、ピーター・トゥルーブ/主婦の友社/2007年
首相の蹉跌」 清水真人/日本経済新聞出版社/2009年
線路工手の唄が聞えた」 橋本克彦/JICC出版局/1983年
遠いリング」 後藤正治/講談社/1989年
滝山コミューン一九七四」 原武史/講談社/2007年
国家の罠」 佐藤優/新潮社/2005年


【戦記、戦争関連】
戦時下の記者たち −セレベス新聞を読む−」 衣笠周司/向陽書房/1997年
セレベス戦記」 奥村明/図書出版社/1974年
憤死 −インパールW−」 高木俊朗/文春文庫/1988年
全滅 −インパールV−」 高木俊朗/文春文庫/1987年
人間の旗 甦った血と涙の連隊旗」 岩川隆/光文社文庫/1985年
昭和戦争史の証言 日本陸軍終焉の真実」 西浦進/日経ビジネス人文庫/2013年
赤道南下」 海野十三/中公文庫/2003年
大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇」 堀栄三/文春文庫/1996年
洪思翊中将の処刑」 山本七平/ちくま文庫/2006年
一下級将校の見た帝国陸軍」 山本七平/文春文庫/1987年
陸軍特攻 振武寮」 林えいだい/光人社NF文庫/2009年
敗残の記 −玉砕地ホロ島の記録−」 藤岡明義/中公文庫/1991年
私は魔境に生きた」 島田覚夫/光人社NF文庫/2002年
ビルマ戦記 ―方面軍参謀 悲劇の回想」 後勝/光人社/2010年
「死の島」ニューギニア −極限のなかの人間−」 尾川正二/光人社NF文庫/2004年
戦場 学んだこと、伝えたいこと」 長嶺秀雄/並木書房/2003年
抗命 −インパールU−」 高木俊朗/文春文庫/1976年
インパール」 高木俊朗/文春文庫/1975年
戦死 −インパール牽制作戦−」 高木俊朗/朝日新聞社/1967年
軍艦武蔵」 手塚正己/新潮文庫/2009年
月白の道」 丸山豊/創言社/1970年
沖縄決戦 高級参謀の手記」 八原博通/読売新聞社/1972年
比島から巣鴨へ」 武藤章/実業之日本社/1952年
太平洋戦争下偽装病院船事件 「橘丸」と戦犯裁判」 御田重宝/徳間書店/1977年
土壇場における人間の研究 ニューギニア闇の戦跡」 佐藤清彦/芙蓉書房出版/2003年
南の島に雪が降る」 加東大介/文藝春秋新社/1961年


【旅、鉄道、アウトドア関連】
新編 黒部の山人 山賊鬼サとケモノたち」 鬼窪善一郎 語り・白日社編集部 編/山と渓谷社/2016年
すぐそこにある遭難事故」 金邦夫/東京新聞/2015年
北浜の駅から」 北浜駅勝手連 編/1984年
「青春18きっぷ」ポスター紀行」 込山富秀/講談社/2015年
雲取山に生きる」 新井信太郎/実業之日本社/1988年
只見線物語」 磯部定治/恒文社/1989年
島を愛す 桃岩荘/わが青春のユースホステル」 尾上太一/響文社/2011年
金副隊長の山岳救助隊日誌」 金邦夫/角川学芸出版/2007年
廃線跡懐想 北海道編」 宮脇俊三ほか/JTB/2002年
リヤカー引いて世界の果てまで」 吉田正仁/幻冬舎文庫/2014年
定本 黒部の山賊 アルプスの怪」 伊藤正一/山と渓谷社/2014年
南アルプス 大いなる山 静かなる山 知られざるルート120選」 永野敏夫・正子著/黒船出版/2000年
日本百名山」 深田久弥/新潮文庫/1978年
栂海新道を拓く 夢の縦走路にかけた青春」 小野健/山と渓谷社/2010年
日本の川を旅する」 野田知佑/新潮文庫/1985年
日本アルプスの登山と探検」 ウェストン/岩波文庫/1997年
駅前旅館に泊まるローカル線の旅」 大穂耕一郎/ちくま文庫/2002年
秘境駅へ行こう!」 牛山隆信/小学館文庫/2001年
北海道廃線駅跡写真集」 亀畑清隆/柏艪舎/2006年


【歴史関連】
ティムール帝国」 川口琢司/講談社選書メチエ/2014年
闇の歴史、後南朝」 森茂暁/角川ソフィア文庫/2013年


【評論関連】
〈盗作〉の文学史」 栗原裕一郎/新曜社/2008年


【新書】
科挙」 宮崎市定/中公新書/1963年
田中角栄失脚」 塩田潮/文春新書/2002年
南京事件 増補版」 秦郁彦/中公新書/2007年


【小説】
原発ホワイトアウト」 若杉冽/講談社/2013年
1Q84」 村上春樹/新潮社/2009〜2010年
夜は短し歩けよ乙女」 森見登美彦/角川書店/2006年
さよなら快傑黒頭巾」 庄司薫/中央公論社/1969年


【その他】
持たない幸福論」pha/幻冬舎/2015年
文藝別冊 総特集ゆうきまさみ 異端のまま王道を往く」 河出書房新社/2015年
あるとしか言えない」 糸井重里&赤城山埋蔵金発掘プロジェクトチーム編/集英社/1993年
旅の途中」 スピッツ/幻冬舎/2007年
中の人などいない」 浅生鴨/新潮文庫/2015年
文学賞メッタ斬り!」 大森望・豊ア由美/ちくま文庫/2008年
日本懐かし自販機大全」 魚谷祐介/辰巳出版/2014年
英文解釈その読と解」 筒井正明/駿台文庫/1987年
教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書」 ばるぼら/翔泳社/2005年
味な宿に泊まりたい」 山本益博/新潮文庫/1998年
変幻戦忍アスカ」 黒岩よしひろ/集英社/1989年
スーパーエリートの受験術」 有賀ゆう/アルファベータ/1994年
指原莉乃1stフォトブック さしこ」 講談社/2012年
テキストサイト大全」 釜本雪生・くぼうちのぶゆき編著/ソフトマジック/2002年
モスモスサーカス」 モスモス編集室/リトル・モア/1996年


【雑記(戦記関係)】
ニューギニア戦の「イドレ死の行軍」について
西部ニューギニア戦線・歩兵第221連隊第3大隊の壊滅
ガダルカナル戦のしんがり、一木支隊
ニューギニア戦の「サンドイッチ部隊」について
旧制中学卒の陸軍軍人
レイテ島・カンギポット残留部隊のその後
消えた久保田支隊
祖父と戦争


【雑記(その他)】
テキストサイト雑感


随時追加。ジャンル分けは適当です。


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